建設作業等の高所作業において、使用される同ベルト型の安全帯は墜落時の内臓損傷や胸部外傷といった外傷が問題視されていました。
そのため、労働者の身体を保護するため国際規格に則り、2019年2月1日から6.75m以上の高所作業ではフルハーネス着用が義務になりました。
結果として臓器損傷や胸部外傷は減ったものの、別の問題点が出てきました。それが“サスペンションシンドローム(トラウマ)”です。
長時間宙吊りで作業することで起こり得る“クラッシュシンドローム”です。
消防吏員は普段からフルハーネスを用いて作業を行ったり、宙吊りの要救助者を救出する訓練をしているので知っておくべき知識になります。
今回は“サスペンションシンドローム(トラウマ)”について解説します。
クラッシュ症候群の詳しい内容はここから→「クラッシュ症候群とは何か?救急救命士がクラッシュ症候群に遭遇した場合の対応方法!」
サスペンションシンドローム(トラウマ)の症状と原因について!
- クラッシュ症候群は、外傷性または外傷に伴う横紋筋融解症。
- 一時的な大きな外力でも発症する例がある。
サスペンションシンドローム(トラウマ)は長時間のフルハーネスを着用しての作業、事故が起きて宙吊り状態で発生します。
腿ベルトの食い込み等により下肢部の血管や神経が圧迫され、血液循環に異常を来たし、意識障害や視覚障害、血栓の発生などの症状が現れる可能性が指摘されています。
クラッシュ症候群は「外傷性または外傷に伴う横紋筋融解症」と定義されています。外圧による筋肉の挫滅あるいは、圧迫解除後の虚血再灌流が病態と考えられています。
つまり、クラッシュ症候群は長時間にわたる圧迫がなくても、一時的に大きな外力が加わることで発症することがあります。
外力が加わった箇所の筋挫滅障害、アシドーシス、出血性ショックが合併する可能性が考えられます。
一時的な大きな外力ということは、“交通外傷”でも起こり得るね!
高所作業において、墜落時どれくらいの荷重が作業者にかかるのか?
1mの高さを自由落下した時にかかる衝撃荷重は約7倍と言われています(TRRの資料からショックアブソーバなしの場合)。
現在、日本の「墜落制止用器具」規格改正ガイドによると、第一種ショックアブソーバで1.8m自由落下した際の衝撃荷重は4.0kN以下。
第二種ショックアブソーバで4.0m自由落下した際の衝撃荷重は6.0kN以下と記載があります。
救急隊の活動!
- 宙吊り状態の傷病者は早期の脱出を優先。
- 脱出時にはクラッシュ症候群と同じ対応が必要。
アメリカ合衆国カリフォルニア州の“サスペンションシンドローム(トラウマ)”に対する対等として、CPAであれば早期に脱出、生命兆候を確認できる場合には、等張液と重炭酸ナトリウムの急速静注/IO投与を考慮してもよいと記載があります。
しかし、日本の救急救命士に宙吊り状態でのIV確保が難しいことを考えると、早期に脱出させるべきだと考えられます。
脱出時にはサスペンションシンドローム(トラウマ)を考慮し、半自動除細動器の準備および酸素投与、保温、オンラインによるIV確保と急速輸液、早期搬送できる体制を整えましょう。
救出に関しては、届かない場所であれば救助隊による救出。届く距離であれば救急車のルーフに乗り用手による救出、ロープ等を救急車に積載し早期に高所支店を取り救出。
MVF等があればそちらの活用もいいかと思います。
宙吊り状態の傷病者を無事に降ろすだけでなく、早期の圧迫解除ができるような工夫が必要だね!