救命士の現場では、傷病者への輸液治療が始まり頻度が多くなっています。
しかし、この一見単純な処置には、予期せぬリスクが潜んでいます。
特に、輸液ルートを通じての空気塞栓は、重大な合併症を引き起こす可能性も。
この記事では、空気塞栓の原因について、救急救命士が知っておくべき重要な情報を提供します。
空気が入る影響と空気塞栓について
空気が体内に入ると、血管に詰まり血液の流れを止めてしまいます。
この状態を「空気塞栓」といい、よく詰まる場所が「肺動脈」になります。
つまり、「肺塞栓症」になってしまうということだね!
静脈から入った空気は下大静脈・上大静脈から右心房に流れ、右心室に移動し肺動脈にたどり着きます。
空気の量が少量であれば、肺動脈の先にある毛細血管で吸収。
しかし、空気の量が多いと肺動脈で詰まってしまい「肺塞栓症」を引き起こします。
肺静脈血中に入った塞栓子(血栓・空気・腫瘍など)が血流に乗って肺動脈に詰まり、低酸素血症をきたした状態。
肺血栓塞栓症の症状として、突然の呼吸困難、頻呼吸、胸痛など。
死亡率は10%以上と高く、病態の悪化が急速。
胸痛と同時に呼吸困難、SpO2値mの低下があったら必ず疑おうね!
肺血栓塞栓症は「SⅠQⅢTⅢ」という特徴的な心電図を示すので必ず記録しましょう。
また、流入した空気の量が多く閉塞した範囲が広いと、右心系に負担をかけ右心不全を合併しショックに陥る可能があります。
どれくらいの量の空気が人体に入ると影響ある?
普段、救急救命士はルート内に空気が入らないように訓練しており、空気が血管内に入ると「空気塞栓」を起こしてしまうという認識しかありません。
じゃ、どのくらいの量空気が入ると「空気塞栓」を引き起こすの?
実はそれに関しての明確なデータはないんだ!
でも、血管内に注入した空気などの影響に関する報告はあるよ!
血管内に注入した空気などの影響に関する報告 |
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チアノーゼの治療として酸素を直接静脈内に注入した。 10ml/minは治療量で、20ml/minは致死量であった。 |
重症症例では、10ml以下でも空気が入ると時として致命的である。 |
ウサギでは5.5〜7.5ml/kgの空気が静脈内に入ると死亡する。 |
人では総量40mlの空気が入ると危険である。 |
100mlの空気を急速に投与すると死亡。 |
200mlの空気を急速に投与すると死亡。 |
人体に空気が3〜5ml/kgが100ml/秒の速度で入ると致死的と考えられています。
つまり、空気の量だけではなく速度も関係しています。
基本的には10mlの空気が血管に入っても大丈夫だと言われています。
輸液ルート1cmの空気の量は約0.04ml。
空気10mlというのは、輸液ルート250cmに相当します。
通常の輸液ルートの長さは約120cmなので、ルート内が全て空気だとしても問題はありません。
10mlの空気が血管に入っても大丈夫と言われているのは、あくまで基本的な考え方。
現場で、「空気が少量入っているけど大丈夫」なんて思っていると取り返しのつかない結果が待っています。
「心房中隔欠損症」など、心臓に穴が空いていると空気が左心室に移動し危険な状態になります。
左寝室から大動脈に移動し脳血管まで到達すると脳梗塞を引き起こし、大動脈基部から冠動脈に移動すると心筋梗塞から致死性の不整脈につながる可能性否定できません。
脳血管だと2ml、冠動脈だと0.5〜1.0mlでそれぞれ脳梗塞・心筋梗塞を引き起こすと考えられています。
心房中隔欠損症は、検診などで心雑音や心電図異常を指摘され初めて見つかる場合が多く、自覚症状もほとんどない場合が多くあります。
生まれたときからその状態が続いているため、症状として気付かないのです。
穴が小さいと、気づかれないまま大人になることが多いよ!
つまり、誰が心房中隔欠損症か現場で判断できないため、輸液ルートを作成する際は空気を全て抜き万全にする必要があります。
空気塞栓の回避方法
輸液ルートを作成する際は、空気を抜く必要があります。
その方法として、輸液をルート内に流す際にルートを上に向けることで空気が抜けます。
作成の際に指で弾くと空気が抜けやすいよ!
急いで作成したい時は輸液バックを潰すと早く作成できるね!
また、アドレナリンやブドウ糖を三方活栓に挿し、指で弾き少し引くことで空気が抜けます。
輸液バックを交換する際に、差し替えに集中するあまり滴下筒を逆向きや横向きに倒してしまい、気泡がルート内に混入しなよう気をつけましょう。
また交換の際はクレンメをしっかり閉じてから差し替えを実施します。