救急救命士として、現場での迅速な判断と適切な対応は患者の命を守るために不可欠。
特に循環不全の早期発見は、その後の処置に大きな影響を与えます。
この記事では、爪と膝をチェックすることで循環不全の兆候を見逃さない方法を詳しく解説します。
爪の色や充血度、膝周りのモットリング(斑点模様)は、末梢循環の状態を示す重要なサイン。
これらのチェックポイントを押さえておくことで、救急現場での迅速な判断が可能になり、より効果的な初期対応が行えます。
現場での経験を活かし、より高度な救命技術を身につけるための一助として、本記事をお役立てください。
血圧など数値に惑わされてはいけない!
どうしてショックは血圧などの数値を当てにしたらダメなの?
血圧は「心拍出量×末梢血管抵抗」求められるんだ!
つまり、心拍手量が下がっても末梢血を収縮して血圧を保とうとする代償反応が働くから初期では数字に反映されないんだ!
ショックとは、組織や臓器への血流が不十分になり、酸素や栄養が供給されなくなる生命を脅かす状態です。
身体はこの状態に対してさまざまな代償反応を示します。
例えば、出血や脱水では血液量が減少するため、心拍数の増加や血管収縮などの代償反応が見られます。
また、心原性ショックでは心臓自体の機能が低下するため、他の臓器への血流を確保するために血管収縮や呼吸数の増加が見られます。
このように代償反応はショックの初期段階では有効に働くことがわかっているので、バイタルサインなどの数値より初期評価で確認できる所見でいち早く気づくことができます。
循環不全時に早期に血流が抑制される場所は、主に末梢の組織や臓器。
体は重要な臓器(脳、心臓、腎臓)への血流を優先するために、末梢の血管を収縮させて血流を抑制。
抑制される場所で「皮膚」が観察しやすく特に「爪」「膝」に症状が現れます。
循環不全を見抜く「爪床そうしょう圧迫テスト」
爪床圧迫テスト(CRT)とは毛細血管再充満時間といいます。
以前まではトリアージする際に用いられていた指標ですが、寒冷期になると寒さにより末梢血管が収縮し、血流が減少。
これにより、再充満時間が延びることがあり評価の指標にならないということで使われなくなってきました。
しかし、このように寒冷期や皮膚が外部の影響で冷たいなど弱点を知っていることで評価方法としては十分役に立ちます。
毛細血管再充満時間(CRT)の測定に関して、2秒から5秒間爪を圧迫し、解除後に爪床がピンク色に戻る時間が2秒以内であれば正常。
2秒を超える場合は末梢循環不全を疑います。
引用:第10版 救急救命士標準テキスト「第2章/救急医学概論/救急救命処置概論/局所の観察」
引用:第10版 救急救命士標準テキスト「第2章/救急医学概論/救急救命処置概論/局所の観察」
前述したとおり、毛細血管の再充満時間は外気温や年齢によって左右されます。
高齢者は動脈硬化のため通常でも2秒以上かかることもあるので注意しましょう。
膝で循環を評価する「Mottling score」
「Mottling score」とは、末梢循環不全を評価する際に用いるツールのひとつです。
モットリングとは、皮膚に斑点状の模様や色むらが現れる現象だね!
膝周囲のMottling(皮膚の斑紋)の範囲をスコア化したもので、膝を中心に円状に広がった斑紋の範囲を、0~5の6段階で評価します。
網状皮斑とは、皮膚に赤紫色の網目状の模様ができ、皮膚色がまだらになっている状態。
Score | 網状皮斑(mottling)の範囲 |
---|---|
0 | mottlingなし |
1 | 膝の中心にあるmottling (硬貨サイズ) |
2 | 膝頭の上端を超えない |
3 | 大腿中央部を超えない |
4 | 鼠径部の股関節を超えない |
5 | 鼠径部の股関節を越える |
mottling(網状皮斑)を確認することで皮膚の血流不足、つまり循環不全や敗血症を疑うことができます。
- スコア0:モットリングがない • 皮膚にモットリングが見られない状態
→この場合、末梢循環は正常であり、特に異常は認められません。 - スコア1:膝の周りに小さな斑点がある
→モットリングが膝の周囲に限局している状態です。初期の循環不全が示唆されますが、まだ比較的軽度です。 - スコア2:モットリングが大腿の中間部まで広がる
→モットリングが大腿の中間部まで広がっている状態です。循環不全が進行しており、より広範な血行不良が認められます。 - スコア3:モットリングが大腿の上部まで広がる
→モットリングが大腿の上部まで広がっている状態です。循環不全がさらに進行し、血流が全身に十分に供給されていないことが示唆されます。 - スコア4:モットリングが上腹部に達する
→モットリングが上腹部にまで達している状態です。重度の循環不全が示唆され、生命維持に重要な臓器への血流が不足している可能性があります。 - スコア5:モットリングが上半身全体に広がる
→モットリングが上半身全体に広がっている状態です。極度の循環不全があり、非常に危険な状態であり、緊急の対応が必要です。
スコアが高いほど循環不全が深刻であり、末梢血管の収縮や血流不足が広範囲に及んでいることが分かります。
また、主要な臓器への酸素供給が不足している可能性が高く、臓器不全のリスクが増大します。