阪神淡路大震災で倒壊建物に挟まれた傷病者を救出後、数時間を経てCPAに陥るという報告が多数ありました。
それをきっかけに“クラッシュ症候群”という病態が広く知られるようになりました。
私も現場で年に1回程度、耕運機に足を挟まれた、工事中に資材が倒れ足が挟まれたという事案に出動した経験があります。
“クラッシュ症候群”と判断した際は活動がどうしても長くなります。しかし、適切な処置をせずに救出してしますと、前述した通りCPAに陥ってしまいます。
初めて“クラッシュ症候群”に遭遇した際は、点滴をあと何分、何時間しなければいけないのか?何ml乳酸リンゲル液を使うのか?もう救出していいのか?など判断に苦労しました。
上記すべて基本的なことですが、救急救命士の学校や所属では絶対に習わない内容になっています。
今回はクラッシュ症候群の病態と救急救命士の適切な処置についてまとめました。
クラッシュ症候群の病態について!
クラッシュ症候群のポイント!
- 1時間の圧迫で発症。
- 若い成人男性だと筋肉量が多いため重症化しやすい。
- 臀部や四肢が長時間圧迫されると、骨格筋の融解(横紋筋融解症)が生じ、急性腎不全を発症しクラッシュ症候群となる。
- 高カリウム血症から心室細動となり心停止に陥る。
クラッシュ症候群とは倒壊した建物などの下敷きになり、長時間圧迫が原因で生じる骨格筋の虚血や損傷、圧迫の解除による再灌流が主な病態。
クラッシュ症候群を発症する3つの特徴的な所見があります。
- 筋肉量の多い部位の圧迫(上肢 < 下肢)。
- 四肢の圧迫が1時間以上。
- 圧迫解除後のショックの進行。
重量物に2〜4時間圧迫されると発症するとされていますが、実際には1時間の圧迫でも発症。
また、若い成人男性だと筋肉量が豊富なため重症化しやすく、全身の骨格筋の30%が障害されると重症度が高くなると言われています。
発症の流れとして、臀部や四肢が長時間圧迫されると、骨格筋の融解(横紋筋融解症)が生じ、急性腎不全を発症しクラッシュ症候群となります。
画像引用:一般社団法人 日本内科学会
横紋筋融解に陥っている骨格筋細胞から、ミオグロビン、Kが大量に全身へ循環。
その結果、高K血症や代謝性アシドーシス、高ミオグロビン血症を伴った、循環血液量減少性ショック、急性腎不全を引き起こします。
血流再開によって流入した血液中の水分は血管内皮障害のため血管外へ急速に漏出して、急激に下肢の腫脹をきたすとともに全身の循環障害、血圧低下が生じます。
救出後から急速に進行する高K血症から心室細動となり心停止に陥ることがあります。
画像引用:第9版 救急救命士標準テキスト
コンパーメント(筋区画)症候群
四肢の急性阻血徴候(5P)
- 異常知覚:Paresthesia
- 阻血領域の知覚障害
- 疼痛:Pain
- 直接の損傷に起因しない痛み
- 麻痺:Paralysis
- 阻血領域の運動麻痺
- 蒼白:Paleness
- 阻血領域の皮膚蒼白
- 脈拍消失:Pulselessness
- 四肢抹消動脈の拍動消失
筋区画内に血腫や筋自体の浮腫などにより、強固な筋膜,骨,骨間膜に囲まれた筋区画の内圧が上昇して筋及び神経の末梢循環が障害される病態。
筋区画内の血管が圧迫されることで血流が障害され、細胞が低酸素状態に陥ります。その結果、筋区画内圧が上昇し阻血症状が出現します。
初期症状として、知覚異常(ビリビリする感覚)や疼痛が出現。
神経機能がさらに障害されると麻痺が出現し、末期の症状として蒼白及び脈拍消失します。
広範囲な筋組織の壊死により横紋筋融解症を合併することで、循環血液量減少性ショック、代謝性アシドーシス、急性腎不全、DICを合併します。
高カリウム血症でなぜVFに?
高K血症の心電図はここを見る!
- 高K血症の心電図は、P波消失、Wide QRS、T波増高、QT短縮を確認。
- 高K血症はVF、心静止の致死的不整脈を発生させる。
Na、K、Caは心筋の細胞を行ったり来たりすることで電位差が発生し、心臓が興奮し「心収縮」が行われます。
高K血症では、カリウムが細胞内から外に移動できず、その結果細胞内の電位がさがらず、ナトリウムが細胞内に入りづらくなり、心筋の興奮が起こらず、心停止へとつながります。
心電図上では、P波消失、Wide QRS、T波増高、QT短縮が確認できます。
現場ではP波の確認、QRSが拡大、R波の高さの1/2以上 T波が高ければ高K血症と判断。
高K血症の末期の症状としてVFや心静止などの致死的不整脈が発生。
基本の心電図を勉強したい方は「【救急救命士】心電図の解釈に必要な基礎知識とは?心電図を理解するための役立つ知識!」を参考にしてください!
救急救命士の現場対応
救急救命士の現場での対応、処置!
- クラッシュ症候群でも“ABCDE”のアプローチが基本。
- 除細動パッドを装着する。
- 静脈路確保し急速輸液を実施。
- クラッシュ症候群では、圧迫解除前に1,500〜2,000mlの輸液が必要。
- 20Gで急速輸液下場合、500ml滴下させるのに約8分。
- 重量物の計算は“比重”を活用する。
現場活動として、プライマリー・サーベイに基づいた“ABCDE”のアプローチが基本となります。
クラッシュ症候群を発症している傷病者は、見た目の重症感が乏しかったり、痛みこそはあるものの意識レベルがクリアと軽傷に見えます。
救急隊は初期評価に異常がないからと“アンダートリアージ”にならないことを注意しましょう。
普段の情報聴取加え挟まれた時間、阻血の5Pを確認し、保温、酸素投与、体位管理、除細動パッドの装着、オンライによる静脈路の実施が必要になります。
クラッシュ症候群を疑った場合、1,500〜2,000ml※2を目安に急速輸液が必要になります。※2 文献や地域プロトコルによっては1,000〜1,500mlと記載あり。
救急救命士の重要な役割として、急速輸液した際に何分で1,500〜2,000mlを滴下させることができるか把握することです。
滴下終了と同時に救助が開始されるので救急救命士は必ず把握するようにしましょう。摩擦や輸液の高さ、キンクなどにもよりますが、20Gで500mlを急速輸液で全滴下するのに約8分かかります。
各G数の流量!
- 18G:100ml/分
- 20G:60ml/分
- 22G:35ml/分
- 24G:15ml/分
救命士は太い針でIV確保することで、現場滞在の短縮、短時間で多くの輸液を投与できるね!
注意すべき身体所見!
- ショック・低血圧
- 患肢の知覚・運動低下
- 褐色尿(ポートワイン尿)
重量物に挟まれた事案は救助隊との連携が必須になります。救急隊が先着した際は、重量物の種類や重さ※3、挟まれ時間などを後続隊に情報提供しましょう。
※3 重量物は比重を把握しておくことで、どれくらいの重さ概算で出せます。コンクリートの比重が1m3あたり2.3t。鉄筋コンクリートの比重が1m3あたり2.4t。
重量物の重さは、「たて×横×高さ×比重」で計算!
参考:「救急救命士標準テキスト」「一般社団法人 日本内科学会」