今回の記事について、さまざまな論文等を参考に作成しています。
近年の研究では、酸素飽和度が正常なACS患者に対する酸素投与の有効性は確立されてなく、むしろ有害ではないのかと指摘されています。
最終的に私個人の意見・見解となりますので参考程度にとどめてください。
急性感症候群(ACS)への酸素投与
急性感症候群(ACS)への酸素投与について「活性酸素の影響で予後を悪くするため酸素投与は実施しない」という意見。
「逆に,救急隊の短い活動時間での影響は考えにくい」または,「酸素投与しても予後に影響がない」など急性感症候群(ACS)患者へ病院前での酸素投与について様々な意見があります。
今回は「JRC蘇生ガイドライン2020/第6章 急性冠症候群」を参考にしたよ!
- 6ヶ月〜1年後の死亡率について、ルーチンに酸素投与した症例、酸素投与しない症例を比較してもそれほど変わらない結果となりました。
- また、入院中の再梗塞、心原性ショック(病院収容後)、心停止についても同様で、STEMI、AMIに分けても同等の結果となりました。
今回の結果からSpO2値90%以上を示すAMI患者において、ルーチンの酸素投与は必要ないと結論付けられています。
つまり、低酸素血症、心不全、ショック徴候がある場合を除き、ルーチンに行う有効性は示されていません。
DETO2X-AMIの結果も同様
DETO2X-AMIとは、急性心筋梗塞が疑われる患者に対して、酸素投与と酸素投与実施しなかった場合を比較した実験になります。
この試験の結果、ルーチンに酸素投与を実施することは無益であるというエビデンスに至っています。
救急救命士キャリアアップデートの見解
上記のエビデンスから正常な酸素飽和度について、SpO2値>90% = PaO2≧60mmHgとなっています。
図で表すこうなります。
引用:第9版 救急救命士標準テキスト
PaO2が90 → 60mmHg(−30)であれば、SpO2は100 → 90%(−10)ということになります。
しかし、PaO2が60 → 30mmHg(−30)だと、SpO2は90 → 60%(−30)になってしまいます。
つまり、SpO2-90%はギリギリで正常を保っているとも読み取れます。
循環不全がありSpO2値が低値なのでは?
ガイドラインでは、低酸素血症、心原性ショックなどないACSに対し、ルーチンに酸素投与は推奨しないであり、「やらない」ではありません。
私はSpO2値が90%であれば、SpO2値94%を目標に酸素投与を考慮すべきだと考えます。
その理由は2つあります。
1つ目は、パルスオキシメータでSpO2値100→90%は緩やかに低下するのに対し、SpO2値90%からは一気に低下するためです。
つまり、酸素投与を開始する際には遅すぎるということ。
2つ目が、2015年に発表されたAVOID trialによると、SpO2値>94%の患者への酸素投与は有害。
この結果によると、梗塞範囲の増加、不整脈の発生、心筋梗塞の再発という結果を示しています。
実験の規模はDETO2X-AMIが大きいので、信憑性もこちらが高いと考えられます。
私個人の結論としては、SpO2値が90%<安全範囲<94%であれば酸素投与は無害と考えます。
酸素投与の判断基準は総合的な判断が必要なので、バイタルサインはもちろんのこと、呼吸様式、チアノーゼの有無、CRT、心電図…etcの観察をしっかり行いましょう。
主要参考・引用文献
- 第9版 救急救命士標準テキスト
- JRC日本蘇生協議会「JRC蘇生ガイドライン2020/第6章 急性冠症候群(ACS:Acute Coronary Syndrome)
[https://www.jrc-cpr.org/wp-content/uploads/2022/07/JRC_0279-0313_ACS.pdf],2023年8月31日閲覧 - 総務省消防庁「救急隊員等の行う観察・処置等に関わる検討」
[https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/post-118/01/shiryou2.pdf],2023年8月31日閲覧