夏の時期によく起こる症状の一つに“熱中症”があります。
日本の夏が年々暑くなってきたことが原因の一つとも言われています。また、高齢化に伴い熱中症を患う人が増えています。
また、熱中症に対する処置として“冷却”などが挙げられますが、処置の仕方を間違えると逆効果になってしまいます。
今回は、熱中症の病態把握と救急隊による適切な処置の方法を記事にしました。
熱中症とは?
- 熱中症は、暑熱環境下での適応障害。
熱中症とは、高温多湿または高温の環境下で、体熱の生産が放散を上回った際に起こります。
暑熱環境での体調不良は熱中症が疑われ、ほか原因疾患を除外したものは熱中症と診断。
重症化すると、脱水による臓器血流量の低下と虚血を症状、高体温による多臓器不全を引き起こします。
熱中症は、頭痛や嘔吐、痙攣、痺れ、意識障害、ショックなど症状が多岐に渡り、他疾患との鑑別が必要。
また、重症例になると社会復帰率も低下するため、適切な処置と適切な医療機関への搬送が必要になります。
熱中症は3つに分類される
- Ⅰ度熱中症は意識障害を伴わない脱水症状。
- Ⅱ度熱中症はJCSⅠ–1以上で、医療機関への搬送が必要。
- Ⅲ度熱中は重症で、L&Gで適切な医療機関への搬送が必要。
熱中症は3段階に分類されます。この分類方法は“重症度”と“処置”、“搬送”の関係をまとめています。
引用:第9版 救急救命士標準テキスト p.1095
Ⅰ度熱中症
Ⅰ度熱中症は“軽傷”の症状で、脱水に伴う症状となります。
症状としては、めまい、立ちくらみ、大量の発汗、筋肉痛、腓返りなど意識障害を認めません。
失神などの症状を認めることもあるので、失神に伴う外傷がないか確認しましょう。
Ⅱ度熱中症
Ⅱ度熱中症からは、医療機関への搬送が必須となります。
症状としては、脱水、頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力・判断力の低下を認め、JCSⅠ–1以上となります。
Ⅲ度熱中症
Ⅲ度熱中は重症で、L&Gで適切な医療機関への搬送が必要になります。
下記の症状のうち1つでも含まれていればⅢ度判断します。
- 中枢神経症状(意識障害JCS1–2以上、小脳症状、痙攣発作)
- 肝・腎機能障害
- 血液凝固異常/DIC(Ⅲ度の中でも特に重症)
著しい脱水が起こると発汗が停止します。
救急隊の対応と処置の注意点
- Ⅱ・Ⅲ度熱中症(意識障害があれば)は搬送が必須。
- JCSⅢ−300、腋窩温で40度以上、収縮期血圧90/−未満は最重症のためL&G。
救急隊の搬送が必須となるのは“Ⅱ度”、“Ⅲ度”からになります。
初期評価にてJCSⅠ–1以上を認めた場合、医療機関への搬送を前提に活動しましょう。
症状が軽度であれば、救急車内の冷房をつけ、環境を変え、保温、バイタル測定をし安静に搬送します。
接触時の評価にてJCSⅢ−300、腋窩温で40度以上、収縮期血圧90/−未満は重症のためL&Gでの活動が必要。
軽傷での処置観察に加え、高濃度酸素投与、体位管理、冷却処置をしましょう。
必要に応じ、気道確保、補助換気、人工呼吸、急速輸液などの処置を行います。
熱中症の本質は、脱水による臓器血流の低下と虚血および高体温による多臓器不全で、意識障害の進行、ショックの発症と遷延、体温降下不良は予後不良の因子となります。
搬送の際は上記処置が必須となり、重症の場合は救急救命センターまたは、三次救急医療機関の選定が必要。
対応可能であれば二次医療機関や地域基幹病院でも大丈夫。
心部体温が40度以上で中枢神経症状をともなっている傷病者の死亡率について。
蒸散冷却・氷嚢・水冷式ブランケットなどの体外冷却では21.6%。胃洗浄や膀胱洗浄を用いた体内冷却を併用した場合は16.5%。点滴のみ(冷却なし)では42.9%。
第46回日本集中治療室医学学会術集会
救急隊は重症感のある熱中症患者には輸液よりも冷却処置が最優先となります。
熱中症に対する冷却処置
- 体表面を冷却しない。
- 蒸散冷却法は常温の水で実施する。
冷却処置には“アイスプール”、“蒸散冷却法”、“冷水シャワー”、“局所冷却”、“血管内冷却”、“クーリングマット”などの方法があります。
救急隊が実施する冷却処置で重要なのは“体表面を冷やさない”、“大きい血管を冷却”することです。
体表面を冷却してしまうと、血管が収縮し熱放散ができなくなります。
結果、体の中から熱が逃げず逆効果になるね!
冷却する場合は、常温の水を霧吹きで吹きかけたり、濡らしたガーゼなどで体を覆い、うちわ等で風を送り気加熱を利用した“蒸散冷却法”を実施しましょう。
冷却ができる太い血管は、“頸部”、“腋窩部”、“鼠径部”になります。
太い血管を冷却し、流れる血液を冷やしましょう。その際に傷病者が低体温にならないように注意しましょう。
また、循環が悪い傷病者だと冷却された血液が体を循環しないため、“蒸散冷却法”の方が有効だと考えられます。
【参考文献】救急救命士標準テキスト、日本救急医学会 熱中症ガイドライン2015、第46回日本集中治療室医学学会術集会