令和3年の救急出動に関しての事故種別を見ると、最も多く出動しているのが“急病”、次いで“一般負傷”、3番目に多いのが“交通事故”になります。
交通事故の割合としては全体の約6%。それでも約36万件の出動があります。
病院前外傷救急では救急隊の活動で生死が別れるほど重要です。
実際に私が出動した外傷救急のL&G、CPA症例では社会復帰率がかなり低かったのを覚えています。
今回は外傷に関しての考え方、処置、病態について説明したいと思います。
適切な病院に適切な処置をして適切な時間で搬送!
病院前外傷救急ではL&Gという考え方があります。
これは外傷での死亡率を減少させるため、医療機関で根本的治療をいち早く行うことが重要となるからです。
つまり外傷死を減らすために救急隊は、必要な処置を行い、どう現場滞在時間の短縮を図るか考えなければなりません。
また、場合によっては根本的治療を優先させるため、直近病院よりも外傷対応可能な病院への搬送も考慮が必要です。
救急隊の地域の病院の詳細を把握し、「外傷に対する初期処置はできる」「外傷対応は全くできない」など把握しておきましょう。
外傷での全身観察と病態
JPTECコースで教えている全身観察の方法として、基本的に頭から足先に向かっての観察。
この方法は観察に抜けがないようにするためになっています。
観察の流れとしては、侵襲が低い“視診”→“聴診”→“触診”の順で行います。
また、観察で探しに行く外傷は「TAFな開緊血を見るぞ」や「TAFXXX + MAP」などの頭文字をとった語呂合わせで覚えてください。
T:心タンポナーデ A:気道閉塞 F:フレイルチェスト 開:開放性気胸 緊:緊張性気胸 血:血胸、腹腔内出血、骨盤骨折、両大腿骨折
T:心タンポナーデ A:気道閉塞 F:フレイルチェスト X:開放性気胸 X:緊張性気胸 X:大量血胸 M:大量出血 A:腹腔内出血 P:後腹膜出血
視診 → 明らかな外傷、出血の確認。
触診 → 頭部は髪の毛があるため触って手のひらを確認。その後、顔面部の圧痛、動揺の確認。
観察方法は、頸部の外傷を確認。指で気管をなぞり真っ直ぐ伸びているか確認します。その後、頸静脈の怒張を見ます。
次に後頸部の圧痛を確認し、鎖骨部を触り握雪感を確認します。
鎖骨骨折は救急隊が見逃しやすい外傷の1つだからしっかり確認しよう!
視診 → 胸の上がり、呼吸の左右差、打撲、出血等の確認。
聴診 → 呼吸音の左右差、雑音の確認。
触診 → 圧痛、礫音、動揺の確認。
肋骨骨折も見逃しやすい外傷。肋骨は背中まで伸びているのでしっかり確認しましょう。
視診 → 打撲痕、出血、腹部膨留、腸管脱出
触診 → 腹部を4分割し圧痛がないか確認。
視診 → 骨盤部の出血、下肢長差の確認。
触診 → 恥骨結合部の圧痛、骨盤動揺の確認。
視診 → 大腿部の変形、出血の確認。
触診 → 圧痛、礫音の確認。
視診 → 両下腿部、両上肢の出血、変形の確認。
触診 → 圧痛、礫音、MSの確認。
外傷に関してが現場滞在するメリットがないので、上記観察を初期評価15秒と合わせて“2分以内”に行えるようにしましょう。
外傷の処置と判断
外傷の傷病者を搬送する上で大切なことは、傷病者の状態がどうなのか把握し適切な処置を実施することです。
機械的に観察してしまうと、「頸静脈怒張→緊張性気胸、心タンポナーデが疑われます」という観察で終わってしまいます。
ではなく、「頸静脈怒張、気管偏移、腹部膨隆→CPAへの移行が間近、またはCPAに移行している」のように病態と状態を結びつけましょう。
骨盤骨折に対して内旋固定の実施がないことが多いので必ず実施しましょう。
骨盤固定の位置もズレてることがあるので、しっかり「大転子部」で固定しよう!
主要参考・引用文献
- 第10版 救急救命士標準テキスト
- 総務省「令和3年中の救急出動件数等(速報値)」の公表
[https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/86950fa7e48dd9fae080df4e31415e80473ef326.pdf],2023年7月25日閲覧