4つのショックの分類の1つである血液分布異常ショック。
他のショックとは違い、代償反応で上がるはずの心拍数が下がったり、皮膚の冷感だけではなく熱感があったりと症状が多岐にわたります。
搬送した患者の診断名を病院から渡された際に、「敗血症性ショック」と診断されていたり判断が難しいと感じていました。
今回は血液分布異常性ショックの3つの病態と、救急救命士が知っておくべき処置と知識について解説します。
血液分布異常性ショックとは?
血液分布異常性ショックのポイント!
- 末梢血管が拡張し血液量が不足する。
- 通常のショックとは違い、熱感、脈拍低下を認めることもある。
血管の異常な拡張により血圧が低下し、酸素需要に応じた臓器組織への血流分布が適切に行えなくなった結果、エネルギー代謝の活発な組織・臓器が低酸素状態に陥る状態。
出典:第10版 救急救命士標準テキスト
敗血症性ショック
- 敗血症性ショックは広範囲な炎症反応、低血圧、臓器不全が引き起こされている状態。
- qSOFAスコアを活用し疑う。
重症感染症で毒素が全身に回り、広範囲な炎症反応に加え、低血圧、臓器不全が引き起こされている状態。
細菌が作り出す毒素により、細胞の炎症反応を誘発する物質(サイトカイン)が放出された結果、血管が拡張し血圧が低下します。
血流量が減少すると、心臓が補おうと心拍数があがります。心臓への負荷により心拍数が低下し血液供給が低下します。
結果、老廃物を血流に放出しアシドーシスになります。
敗血症生ショックに陥りやすい人の特徴を以下にまとめました。
- 高齢者
- 糖尿病や肝硬変などの特定の慢性疾患
- 手術後
敗血症性ショックの判断には、“発生概要 + 発熱 + qSOFAスコア”を活用しよう。
敗血症性ショックを疑うポイントとして、初期評価にて、橈骨微弱、心拍数増加、熱感を確認しましょう。
“qSOFAスコア”で2点以上あれば敗血症を念頭に活動。
qSOFAスコアとは?
- 呼吸数≧22/分
- 意識レベルの変容
- 収縮期血圧≦100mmHg
2つ以上を満たす場合は敗血症を疑う。
アナフィラキシーショック
アナフィラキシーショックの定義
- アナフィラキシーは重篤な全身性の過敏反応であり、通常は急速に発現し、死に至ることもある。重症のアナフィラキシーは 、致死的になり得る気道・呼 吸・循環器症状により特徴づけられるが、典型的な皮膚症状や循環性ショックを伴わない場合もある。
アレルギーは4つの病型に分類され、Ⅰ型(即時型)アレルギーの重傷例が“アナフィラキシー”と言われます。
“アナフィラキシー”は、身体がアレルゲンに過剰に反応し、血管や呼吸器系の緊張、血圧低下、循環不全などの症状が現れる、重篤なアレルギー反応です。
食物、薬品、昆虫刺され、ラテックスなどのアレルゲンによって引き起こされることが多く、症状は迅速に発生する場合があり、体全体に広がる発疹、息切れ、喉の腫れ、嘔気や嘔吐、腹痛、意識障害などが現れます。
アレルギーに関しては「アナフィラキシーショックの落とし穴!二相性のアレルギーに注意」も参考にしてください。
“アナフィラキーショック”は、急速で重篤な症状が現れるため、治療が遅れると取り返しのつかない結果に…。
アナフィラキシーショックを疑う所見として、見逃してはいけない5つの症状があります。
それが、<呼吸症状> <皮膚症状> <粘膜症状> <消化器症状> <循環器症状>になります。
以下の2つの基準のいずれかを満たす場合、アナフィラキシーの可能性が非常に高いと言えます。
1.皮膚、粘膜、またはその両方の症状(全身性の蕁麻疹、掻痒または紅潮、口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)が急速に(数分〜数時間で)発症。
2.典型的な皮膚症状を伴わなくても、当該患者にとって既知のアレルゲンまたはアレルゲンの可能性がきわめて高いものに曝露された後、血圧低下*または気管支攣縮または喉頭症状が急速に(数分~ 数時間で)発症した場合。
救急隊としては、傷病者が好む体位にし管理。“エピペン”を処方されている場合は、使用期限、本人に処方されているか確認し使用。
適切な輸液投与で循環血液量を維持することや、気道確保や酸素投与を実施することで呼吸やガス交換を維持、適切な体位管理することが重要となってきます。
神経原生ショック
- 神経原生ショックの特徴は、心拍出量の低下、心拍数の低下、皮膚が乾燥、温かい。
- 交感神経が遮断され、血管拡張、心拍出量低下、心拍数が低下する。
- 神経原生ショックの特徴として損傷部位が高位であるほど血圧が低下。
- 血圧低下は中等度程度。
第3腰髄節より上での脊髄損傷は、交感神経に影響を与え与える可能性があります。
第5胸髄節付近より高位での脊髄損傷で、交感神経が遮断され血管の緊張が保てなくなります。
また、交感神経が遮断されると代償による心拍数の増加、心収縮力の増強ができず血圧が低下しショックに陥ります。
神経原生ショックの特徴として損傷部位が高位であるほど血圧が低下します。
脊髄損傷での血圧低下は中等度にとどまるけど、高度な血圧低下が見られる場合は“出血”の合併など疑おう!
脊髄損傷をきたした傷病者の身体的初見として、心拍出量の低下、心拍数の低下、皮膚が乾燥、温かいという特徴があります。
血液分布異常性ショックに対する救急隊に対応
- L&Gでの活動。
- 搬送を遅らせてはならない。
救急隊は初期評価後、ショックを確認したら高濃度酸素投与を開始しましょう。
特に“アナフィラキシーショック”、“敗血症性ショック”では低酸素血症を伴います。
L&Gでの活動になるので、搬送>輸液の優先度になるということを忘れずに活動しましょう。
注意が必要な病態について、アナフィラキシーショックで喉頭浮腫の症状があり切迫している時は最優先での搬送になります。
傷病者がエピペンを保持している場合にはこちらを優先。
生命の危機に瀕している場合には、初期評価、発生概要のみで受入要請し病院選定後、セカンドコールでバイタルサインを伝えるのも救急救命士のテクニックになります。